対話風景

Project story

停泊中に充電する
バッテリーシステムの開発

About project

船舶の省エネ化につながる
蓄電システム開発への挑戦

2020年10月、一般社団法人内航ミライ研究会が発足した。国内貨物の海上輸送を担う内航海運業界が抱える諸問題(船員の労働環境の改善や温室効果ガス削減など)に取り組むために立ち上がった団体である。2024年1月現在、船舶メーカーや船主、IT企業、設計会社など67者が名を連ね、オブザーバーとして海上技術安全研究所や鉄道建設・運輸施設整備支援機構、日本海事協会などが参画する。この研究会の一員としてコンテナ型蓄電(バッテリー)システムの開発に携わってきた中国電機サービス社の田中と工藤。船舶の省エネ化に大きく貢献する可能性を秘めたこの蓄電システムに対して2人がどのように取り組んできたのか、その軌跡を追ってみた。

Project member

技術部 次長 田中 治

技術部 次長

TANAKA OSAMU

2009年入社

技術部 設計グループ 工藤 瞭

技術部 設計グループ 

KUDO RYO

2021年入社

STORY / 01

始まりは電動スラスターの受注だった

2021年6月、「りゅうと」と名付けられた貨物船が就航した。山口県内の大手総合化学工業メーカーが扱う液体苛性ソーダの輸送を目的に建造され、後に「シップ・オブ・ザ・イヤー2021小型貨物船部門賞」を受賞するケミカル運搬船である。「船員不足に悩む内航船業界にあって、荷役や離着岸操船のデジタル化を進めて船員の負担軽減を図った」ことが評価され同賞に輝いたのだった。
この「りゅうと」の特徴の一つが離着桟支援システムが搭載されたこと。離着桟の際に船を横方向に動かす船首船尾スラスターのほか、デジタル電動ウインチや船陸間距離センサーを備え、遠隔集中操作統合パネル「ミライパネル」によるジョイスティック操船を行えるようにすることで船員の負担を削減したのである。
この「りゅうと」の建造にあたり、内航ミライ研究会の会員社から「スラスターを電動化したいのだが」と引き合いを受けたのが当時まだ研究会に所属していなかった当社で、当社にとっては一般的な受注の一つとして引き受けたものだった。

対話風景 対話風景

STORY / 02

蓄電システムの開発は
サイズを決めることから

2022年7月、内航ミライ研究会は「SIM(Ships Integration Manager)事業」をスタートさせ、コンセプトシップ「SIM-SHIP」初号機の建造を発表した。運航時の省エネのほか停泊・荷役・離着桟時のCO2削減、IoT技術などを使った陸上からの支援による運航管理や荷役をはじめとした船員の負担軽減をめざす次世代型貨物船の建造プロジェクトである。
このプロジェクトの一環としてコンテナ型蓄電システムの開発が計画され、再び中国電機サービス社に白羽の矢が立てられることになったのである。「りゅうと」での実績が認められたということだろう。
「最初は『船の電力を蓄電池でまかないたい』『既存の船舶でも使えるようにコンテナにバッテリーを積みたい』というコンセプトがあるだけでした。蓄電池の容量もコンテナのサイズも全くの白紙で、それらを協議しながら詰めていくことから始まりました」と田中は言う。
容量は大きいに越したことはない。しかし、サイズやコストの問題などもあり、理想と現実の折り合いをどうつけるかが調整のポイントだった。
貨物船は航行中であればメインエンジンを動かしているのでそのエネルギーをもとに発電ができるようになっている。一方、港に停泊しているときは陸上から電力を供給する陸電システムを使うか、それがなければ補助エンジンを使って発電しなければならない。エンジンを動かすかぎり燃料の消費を減らせないばかりか、船内で寝泊まりする船員にとっても振動の原因になるし、周辺の騒音につながってしまうおそれもある。そうした問題を解決する手段の一つとしてコンテナ型蓄電システムが発案されたのだが、最初からはっきりした輪郭が見えていたわけではなかった。

業務風景 業務風景

STORY / 03

田中・工藤の2名体制で進めた設計

研究会との窓口になり要件定義などを固めながら基本設計を進めていた田中だったが、そのとき気になっている社員がいた。入社してまもない工藤である。前職時代の経験や知識を活かしながらさまざまな仕事にチャレンジしている工藤の姿を見て、「工藤なら任せられる」と直感したのだ。まだまだ不得意な部分もあるのは承知の上で声をかけ、田中が技術的にフォローしながら工藤が詳細図などを書いていくという2名体制がスタートした。
12フィートコンテナという限られたスペースの中に蓄電池と制御装置をどう配置するか。また、蓄電池のメーカーによっても制御方法は異なるほか、実際に電流を交流から直流に変えたり直流から交流に戻したりするドライブユニットもこれまで使ったことがない初めての海外製品だったため、プログラムをどう組めばドライブの性能を引き出せるのか。あるいは充電や放電を行う際に蓄電池の寿命を短くしないように電圧を調整する必要もあり、その手順が間違いなく行えるかなど、田中と工藤は何度もミーティングを重ねながら2ヶ月ほどかけて図面をブラッシュアップさせていった。

業務風景 業務風景

STORY / 04

実際の蓄電池を使った設定や調整で
思わぬハプニング

開発の苦労としてさらに挙げられるのが、実際のコンテナ型蓄電システムが愛媛県今治市にあるということだった。回路図などを書いて安全性の面でも効率性の面でも理論上は問題ないようにし、社内で何度となく検証してきたものの、特に蓄電池から電気を外に出す放電フローだけは現物がなければ実際の挙動がわからないからである。だからこそ、田中と工藤が今治まで出向いて蓄電池を使った検証を行った2週間は、普段とは違う緊張感があった。
「プログラム自体に不安があったわけじゃないんです。ただ、実際に蓄電池とつなげたり船側の配線に電気を通したりするのは初めてですし、万が一電気が流れる順番が1ヶ所でも違えばシステムが文字どおり破裂してしまうかもしれません。なので、あえて途中の回路を遮断して、まずはここまで通電し、大丈夫だったら次はここまでというふうに慎重に作業を進めました」
「蓄電池がフル充電されているときとほとんど充電がないときで電圧も変わるので、いろいろなパターンで検証をするんですが、充電するのも放電するのも時間がかかります。それに加えてドライブユニットの不具合もあって、その原因がわかるまでにも時間がかかりました」

すべての検査が終わってから2週間、船体に「國喜68」という名前が輝く「SIM-SHIP」初号機のお披露目イベントが今治市で開催された。そこにはステージ上で蓄電システムの開発について説明する工藤の姿と、それを誇らしげに見守る花本社長の姿があった。 「セレモニーが終わり、出港していく國喜68を見送るときに安堵というのか肩の荷が下りたというか、とりあえず手が離れたなという気持ちがありました」そう話す工藤は、田中が別の仕事の関係でイベントに参加できなかったことだけが残念だった。

対話風景
業務風景

現在進行中の2号機では 蓄電システムの小型化をめざす

内航ミライ研究会では、すでに2号機となる499GT型コンテナ船「SIM-SHIP1 mk2」の開発に着手し、中国電機サービス社でもこのタンカーに搭載される新たな蓄電システムの設計開発を進めている。先に開発した蓄電システムが船の停泊中の使用を前提としていたのに対し、2号機では陸上電源や船内の余剰電源を使って充電し、停泊中の船内電力供給のほか、航海中にALSと呼ばれる航行性能を高めて省エネを実現させるための装置に給電することを前提としているのが大きな違いだ。
1号機で培った考え方に加え、航行中に蓄電量が下がればシームレスにメインエンジンを使った発電システムに切り替えるための技術なども求められているほか、コンテナ自体を小型化するという課題も課せられている。
納期までの限られた時間の中、二人三脚での挑戦を続ける田中と工藤。2人の思いは次の言葉に集約されているのではないだろうか。
「通常の業務と並行しての作業ですので大変さはありましたけど、初めて携わるような分野でしたので新しい知識を身につけることができたり、研究会の会議に参加して提案をするなど主体性の高い仕事ができたり、やりがいは感じていますね」(工藤)
「工藤がお客さんに評価してもらって、信頼されているのがわかります。そうした場面を見るとやっぱり嬉しいですし、任せてよかったですね」(田中)

SDGsへの取り組みが求められる中、田中と工藤が開発したコンテナ型蓄電システムは内航海運業界の未来を大きく変えてゆくことになるだろう。環境への負荷を低減し、より安全で効率的な海上輸送の実現に向けて2人の挑戦は今も続いている。

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